Under the PINK
1月は土岐麻子とThe Molochsの新譜をよく聴いていた。
特に土岐麻子『PINK』は良かった。ピンクって、カタカナだとポップな印象なのにPINKとアルファベットになると途端にソリッドなイメージになるのは自分だけだろうか。
ほとんどの作曲とアレンジを手掛けたTomi Yoは、最近の槇原敬之の作品にもよく参加していて名前を見かける機会は多かったんだけど、個人的にあんまりピンとくる仕事はなかった。それが今作はどうだ。アレンジもミックスもズバズバと胸を揺さぶる。ジャズの人であり、バンド=生音を主戦場としてきた彼女を、ここまで振り切ったデジタルサウンドで完璧にプロデュースするとは恐れ入った。表題曲『PINK』の2:24以降の転調とか最高すね。
殊更に「シティポップ」というワードで語られる今作は、その点においてもシュガーベイブ、吉田美奈子、山下達郎あたりの音楽スタイルだけを模倣したような近年のシティポップチルドレンとは一線を画す。ある意味で軽薄というか、土岐麻子の主観が曲想を邪魔しない。これは正しく、ちっぽけな街に生まれ、人混みの中を生きる人々の音楽だと思う。改めてシティポップとはスタイルではなくアティテュードだと思い知らされる。
ところで、土↑岐↓さんって自分の中では「ポップス寄りのジャズボーカリスト」という認識だったんだけど、いつの間に「クイーン・オブ・シティポップ」になったんだろうか。その称号は大貫妙子のものじゃないのか。顔か。顔なのか。じゃあ仕方ねぇな。そういや何年か前に出たター坊のトリビュートアルバムでは『都会』をカバーしてたね。風俗嬢とその客を歌った『PINK』の歌詞は『都会』をベースにしてるのかしら、と思うところもチラホラある。ただ、あのアルバムでは岡村靖幸の『都会』のほうが断然好きだな。
値打ちもない華やかさに包まれて
夜明けまで付き合うと言うの
その日暮らしはやめて
家へ帰ろう 一緒に
この歌詞が岡村ちゃんにピンズドすぎて、なんだか泣けてきちゃったんだよ。
あと、10年近く前に「MUSIC FAIR」で大貫妙子と矢野顕子と槇原敬之が共演した『海と少年』はすごく印象に残ってる。
最強。このとき初めて動く矢野顕子を目撃して衝撃を受けたなぁ。
大貫妙子と一十三十一による『いつも通り』も良かった。一十三十一、当時は媚薬系歌姫なんて呼ばれてたっけ。俺もライブ観に行って可愛らしさにドキュンと胸騒ぎしたもんです。まさか本当に電光石火のベイビーを産んでしまうとは思わなかった。