GRAPEVINEについて

いちばん最初に好きになったロックバンドがGRAPEVINEだなんて人、俺以外にこの世に存在するんだろうか。とまぁ、いきなり暴論から書き出してみたけど、少しでも彼らの音楽に触れたことのある人なら俺の言いたいことがなんとなく分かってもらえると思う。ここ数日、彼らへの愛が止まらない(by Wink)ので勢いに任せて全オリジナルアルバムについて語っていく。 

覚醒 - EP

覚醒 - EP

全5曲。「普通のシングルでデビューしたくなかった」という理由でミニアルバムだったらしい。この時点でだいぶヒネくれてるし、楽曲と歌詞はもっとヒネくれてる。お前ら売れる気ないだろう、と思わず言いたくなる。自分たちの信じる音楽を貫いて、その結果として誰かが支持してくれればそれでいいや、という投げやりな雰囲気。

「昔はナイーブだった」って

ときに君は幾つになるんだっけ?

 

 ♯覚醒

と歌う田中和将、このとき23歳。末恐ろしい。

退屈の花

退屈の花

前作が売れたわけでもないのに、ずいぶん待遇が良くなったのか、音が格段に良くなった。当時のポニーキャニオンの期待が窺える。

坂本ファミリーに傾倒していた高校生の頃、たまたま目にした音楽雑誌に「矢野顕子の『ひとつだけ』にインスパイアされた曲」として本作収録『1 & More』が紹介されていて、気になりすぎてTSUTAYAに直行したのがGRAPEVINEとのファーストコンタクトだった。と思う。結果、それまで「下品で野蛮な存在」として嫌悪すらしていたロックバンドに見事にハマってしまったんだから人生わからない。

Lifetime

Lifetime

いよいよ作曲センスが化け物じみてきたドラマー亀井亨による『スロウ』『光について』といった代表曲が収録されていて、セールス的にも最も成功した2ndアルバム。

センター試験の会場に向かう電車の中、ソニーのMDウォークマンでこのアルバムを聴いてたっけ。実にいけすかないガキだな。

もう一度 君に会えても 本当は

もう二度と届かないような気がしてた

 

♯光について

このフレーズ、ことあるごとに人生のBGMとして流れてる。ていうか『光について』、ウィキペディアをのぞいてみたら「新ウンナンの気分は上々。」エンディングテーマだったってマジかよ。シュールすぎるだろ。

Here

Here

めちゃくちゃ好きなアルバム。彼らのディスコグラフィの中でも特に音が良い。海外の有名なエンジニアにマスタリングしてもらったっていう予備知識を持っているプラセボ効果もあるかも知れないけど、やっぱりどことなく洋楽的なサウンドに聴こえるな。ジャケットも日本っぽくない。

あれ?途中から再生しちゃった?と思わせるようなイントロで幕を開ける『想うということ』からして最高だし、何より『リトル・ガール・トリートメント』『羽根』『here』という後半の畳み掛けが素晴らしい。『羽根』のイントロにゾクゾクしない人とはちょっと友達になれそうにない。

Circulator

Circulator

リーダー西原が病気治療のため離脱。ゲストミュージシャンを多数迎えて製作された実験作、という位置付けの4thアルバム。

こちらは何と言っても中盤が良い。『風待ち』『lamb』『Our Song』の美しすぎる並びは前作後半と双璧ではなかろうか。あれこれ試行錯誤してるけど、なんだかんだで田中の言葉選び、亀井のメロディセンス、西川のギターアレンジというバンドとしての核の部分は不変。『Our Song』は去年の今ぐらいの時期にアホほど聴きまくってたっけ。何があったのかは察してくれ。

another sky

another sky

いやもう『アナザーワールド』の名曲っぷりよ。泣けるほど美しい亀井節のメロディラインに心を鷲掴みにされる。分かりやすいフックがあるわけではなく、それでいて一度聴いたら心のどこかに仄かに残り続ける、そういう絶妙なラインを攻めるのが実に巧みだと思う。歌詞については松本大洋の『GOGOモンスター』の世界観に影響を受けているらしいので漫画を読まなくては、と昔から思っているのだけど、いまだに読めていない。

アナザーワールド』とか『それでも』を曲単位では聴くものの、アルバム通して聴くことは少ないかな。ジャケットは好きだけどね。

イデアの水槽

イデアの水槽

これまでのアルバムは全て後追いで聴いていたのだけど、ここからようやくリアルタイム。つまり前述の音楽雑誌を読んでTSUTAYAに走ったエピソードは2003年頃の出来事ということになる。勉強しろ受験生。

初めてリアルタイムで触れた彼らの最新作ということで思い入れは非常に強い。ていうか一曲目の『豚の皿』が当時あまりにも衝撃だった。同級生に「すげー曲がある!」と聴かせて気持ち悪がられたのを覚えてる。曲が気持ち悪がられたのか、それとも俺が気持ち悪がられたのか、今となっては分からないけども。『Good bye my world』とキリンジの『Drive me crazy』は俺の中で2大ドライブソング。

ファン屈指の人気を誇る表題曲(通称エブエブ)が、とにかく全身が震えるほどの傑作。この曲を田中が号泣しながら歌ってるライブ動画がYoutubeに転がってるので、暇があったら見て欲しい。

いつか叶う様に と

どの面下げて言うんだろう

その大事な想いも

やがて忘れてしまうんだそうだ

 

♯Everyman, everywhere

忘れてしまうこと、消えてしまうこと、届かないこと。そういった「形にならない何か」に対する強烈な慈愛というものが田中の歌詞には常に含まれていて、それが光だったり風だったり水といった無形物をモチーフに歌われることが多い。そして不条理や不完全を自然なものとして受け入れることで自分自身を肯定していく。一旦ネガティブ。からのポジティブ。このコントラストに誰しもヤラれてしまう。

Metamorphose』もかなり好き。「逃げた」と「人間だ」で韻を踏むあたりが実に皮肉っぽい。この曲もライブテイクが素晴らしい。バインって日本最強のライブバンドじゃないかしら。

deracine

deracine

アルバム全体を通じてバランスがすごく良い。全10曲というコンパクトさも相まって、ズシンと重たいアルバムが多い彼らのディスコグラフィの中にあって気軽に何度も聴ける一作になってると思う。『REW』の歌詞が過去のシングル群を表現している、というファンの考察には膝を打った。

サウンド的には『Lifetime』あたりからブリティッシュなカラッとした音像が多かったけど、この辺りからデビュー直後の土の匂いのするルーツミュージックに回帰。オルタナカントリーっていうのかな。ただ、それにしてもミックスがちょっとローファイすぎる気がするような。もうちょい解像度の高い音で聴いてみたいのでリマスタリングして欲しい作品でもある。

From a Smalltown

From a Smalltown

前作で一部参加していた長田進が全面プロデュース。さらには作曲クレジットにGRAPEVINE名義が登場することからも分かる通り、それまで避けてきたというジャムセッションから生まれた曲を多数収録した8thアルバム。2020年現在では今作がいちばん好きかもしれない。この時期の田中は自身の過去(かなり波乱万丈だったらしい)を振り返るような歌詞が多くて心を揺さぶられる。

『smalltown, superhero』を後半じゃなくて4曲目に持ってくる、このセンスよ。『スレドニ・ヴァシュター』と『I must be high』の間に挟む、この度胸よ。そこに痺れる憧れる。『インダストリアル』『指先』『FORGEMASTER』『棘に毒』という後半の亀井曲4連発にはもう参りましたって感じ。

Sing

Sing

前作をさらに深化・抽象化させた派手さのかけらもないアルバム。この辺になってくると完全に一見さんお断りの知る人ぞ知る隠れ家的名店の趣。本人たちはそんなつもりないだろうけど。

『豚の皿』『VIRUS』あたりでもアプローチしていたポストロックを『CORE』で完全に体得した感がある。レディオヘッドっぽいって言ったら元も子もないかな。ていうか『CORE』がタイアップシングルってどういうことだよ。プロモーションどうなってんだ。 

Twangs

Twangs

このアルバムがリリースされた年に就職したせいか、あんまりじっくり聴いた記憶がない。アナスカ同様、アルバム通して聴く機会は少ない作品。でも雰囲気は前作の延長線上にあると思う。「やべぇ、シングルで切れる曲がねぇ!」つって慌てて『疾走』を作ったんだろうな、というのがよく分かる。で、アルバムでの置き所に迷って一曲目っていうアレでしょ。知らんけど。

完全に隠れた名店と化していた(俺が勝手にそう感じていた)彼らが、『真昼の子供たち』というウルトラポップソングを放ったことに度肝を抜かれた。この曲をBGMにしたツアーのダイジェスト映像がまた良い。


間奏のところでギター西川が東日本大震災の惨状を伝える新聞に目を通してるシーンが一瞬あって、当時の空気感がフラッシュバックする。と同時に、そのシーンをあえて挿入した意味とか、この曲の強靭な意志へと想いを馳せずにいられなくなり、つい目頭が熱くなってしまう。曲自体は4〜5年前に出来ていたそうだけど、この年にリリースしたことに柄でもなく運命みたいなものを感じる。

ここへきてブラスアレンジまで駆使するようになって、また一皮剥けた?というくらい瑞々しい。こうして振り返ってみると節目となるタイミングでミニアルバムを出すバンドだな。

しばらく英語タイトルを多用してたのに、思い出したかのように『無心の歌』『なしくずしの愛』『片側一車線の夢』『虎を放つ』と日本語タイトル(それも絶品のセンス)を連発。そんなアルバムのタイトルが『愚かな者の語ること』って、何それ、ちょっとズルくないか。歌詞も内省的・抽象的な内容は鳴りを潜めて、シンプルかつ等身大(当社比)な歌詞で驚かされる。『deracine』と同じくらいアルバムトータルで聴きやすいと思う。

それにしても、まさかGRAPEVINEが『片側一車線の夢』みたいな曲を世に送り出すとは思わなかった。the pillowsが出すなら分かるけど。そうそう、GRAPEVINEthe pillowsTRICERATOPSの3組を「売れないバンド御三家」と自嘲気味に語り合う2ちゃんねるのスレッドがかつて存在してたっけ。当時、リバプールインテルバルセロナのダメぽ三兄弟スレッドと合わせてちょくちょく覗いていたものだった。みんな今では立派になって。

Burning Tree

Burning Tree

もはやロックバンドというより音楽集団と呼んだほうがしっくりくる存在になってきた感のある13枚目。たしかに『Here』は青で、『Burning Tree』は緑だよな、という謎の説得力がある。

先行シングル『Empty Song』が少しばかり浮いてる気がしないでもないけど、やっぱり良いアルバムだと思う。どんどんテクニカルかつシンプルになっていくという矛盾を涼しい顔してやってのける。そこに痺れる(略)

Babel, Babel

Babel, Babel

めちゃくちゃポップ。『HESO』『UNOMI』『TOKAKU』ってタイトルがサマになるのは彼らくらいでしょ。相変わらず皮肉っぽさはあるものの、それはもう若者のニヒリズムではなく大人の遊び心へと変容していて、聴いていて思わずニヤニヤしてしまう。

このサムネで「これ途中で乳首見えるよ」って言われたら騙されるに決まってるやん。いや見えたけど。

危機があるから俺は産まれるぜ

まことしやかな説 Kinky girl

さあ恋は生まれるか

吊り橋にでも出掛けよう

奈良県

 

♯EVIL EYE

この言語感覚。"危機がある"と"Kinky girl"、そして"奈良県"と"Now,rock'n"をかけてくる肝の据わりっぷり。もっと言えば奈良県は近畿。どうなってんだ。

Roadside Prophet

Roadside Prophet

先行シングル『Arma』のくたびれた感じが清々しい。ちゃんとバンドとして歳を重ねたんだな、という安心感。だからこそ所信表明にも説得力が増す。

このままここで終われないさ

先はまだ長そうだ

疲れなんか微塵もない

とは言わないこともない

けど

 

Arma

全体としては前3作を足して割ったような印象かな。良い意味で凹凸がなくて、綺麗にまとまってる。DIYにこだわった『愚かな〜』、ミニマリストっぽい『Burning Tree』、気に入ったインテリアを詰め込んだ『BABEL,BABEL』ときて、今度はトータルコーディネートにこだわりました、みたいな感じ。

All the Light

All the Light

集大成なのか新境地なのか。そんなことはもうどうでもいいや。アカペラで幕を開けて、ホーンあり、弾き語りあり、ストリングスあり、シンセあり、ピアノあり、これでもかってくらい好き勝手やってからの『すべてのありふれた光』で大団円。もう不敵すぎて笑ってしまう。

 

ロックバンドというのは酷な稼業だ。ずっと変わらなければマンネリだの焼き直しだのボロクソに叩かれ、いざ変わってみたら「そんなの求めてない」とソッポを向かれる。そんなシビアな世界で、デビューから20余年、少しずつ、しかし確実に、彼らは変わりながら、時代や聴衆に迎合することなく、いちばん良いと思う音楽を作り続け、愛され続けてきた。『覚醒』で感じた投げやりな雰囲気は、彼らの矜持であったことに今さら気付かされる。あぁ、なんて凄いんだろう。

あの日、あの時、あの本屋でエロ本を勃ち読みして店員の刺す様な視線を感じていなかったら、俺は音楽雑誌を手に取ってなかった。扉を壊して連れ出してくれてありがとう。もうずいぶん昔のことのようだけど、ときに君は幾つになるんだっけ?