Lucy in the Sky with Diamondsだね

「そのジャケット去年も着てませんでした?」じゃねえよ去年も一昨年も着てたよ悪いかよバカ野郎。三年目の上着くらい大目に見ろよ。というやりとりをするのが面倒なので普段から不要不急の外出を控えている俺に死角などないし、普段から不眠不休で中に入れることを考えている俺には誰かと濃厚接触する資格などない。ただ、こんな時だからこそコロナワールドのカラオケで『Diamonds』(プリンセスプリンセス)を熱唱したいロックンロールスピリッツは不朽不滅なので誰か誘ってください。好きな服を着てるだけ悪いことしてないよ。いやこっちの話。

そんなわけで相変わらず部屋に引きこもって音楽を聴いている。iTunesにレート機能ってあるじゃんか。最高で五つ星まで付けられるやつ。先日、ふとiTunesライブラリに登録してる全曲をレーティングしたいって衝動に駆られたわけ。プレイリスト作るときにも色々と便利そうだし。

で、せっかくなら古い曲から順番に聴いていったほうが音楽史的にも楽しめるかなと思って1920年代から聴き始めてみた。これがなかなか楽しい。ブルース、カントリー、ジャズ、ロカビリー、ブリルビルを経過してからのビートルズ登場ってのはマジで当時の一大センセーションだったんだなってのが理屈ではなく鳴っている音そのもので理解できる。こんなもん誰でも熱狂するよな、と肌感覚で分かる。やばい。えぐい。間違いない。語彙力は50年代に置いてきた。これを書いている時点ではディランがだいぶ聴きやすくなってきた60年代中頃を漂流中。こういう聴き方をしてるとディスクガイドや音楽史に関する書籍が欲しくなるな。オススメあったら是非教えてください。

ところでBluetoothヘッドホンを修理に出しているので有線ヘッドホンを使用してるんだけど、iMacってのはどうしてディスプレー向かって右側にヘッドホン端子をレイアウトしてしまったんだろう。片出しヘッドホンはたいてい左側にコードがくるわけで、つまり

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当然こうなる。デスク上を大横断。右から左へ。坂本龍一かよ。なんでもないです。え、でもホントにアップルってバカなの。それとも2020年にもなって有線ヘッドホンを使ってる俺が時代遅れのバカってことなの。いやいや。穴があったら挿すでしょ。いったい俺はこの想いを誰にぶつければいいの。アップルの偉い人か。なぁ。アップル社のビルの屋上で叫べばいいのか。寒そうだなおい。ちょっと誰か上着貸してくんない?

どうしても叫びたくて

ーの使い方がイマイチ分からない。あのほら、長音を表すー。長音符っていうのか。なんとなく今までフワッと使ってきたけど、正直、ずっとモヤモヤしてた。

いや、さすがにラーメンとかユーチューブは分かるよ。口に出して発音するときラメンとかユチュブとは言わないもの。ビートルズローリングストーンズ。大丈夫。

じゃあキャンディー。これはもう途端に怪しくなってくる。たしかに口にする際はdiの音で止めない。そのまま伸ばす。でも長音符を付けないキャンディって表記の方が多く見かけないか。あの漫画も『キャンディ・キャンディ』であって『キャンディー・キャンディー』ではないのだ。実際は誰もがキャンディー・キャンディーと発音しているにもかかわらず。シティポップのことを律儀にシティーポップと書く人も少ない。「ィ」に音を伸ばす働きなんてないはずなのに、メロディ、スパゲッティ、パーティ、どれもこれも世の中に浸透した表記になっている。

そもそも外来語をカタカナ表記する時点で多少の綻びは致し方ないのだけど、アイデンティティに至っては何が何だか分からない。リピートアフターミー。アイデンティティ。はい。どうですか。最初の「ティ」と二度目の「ティ」は全く同じでしたか。違いますね。明らかに違う発音をしておきながら、アイデンティティという表記には違和感を抱かないまま今日まで過ごしてしまった。どうして時が経って僕は気付いたんだろう。いや、昔から心の奥底に違和感はあったのかも知れないな。見て見ぬフリして、臭いものに蓋をして生きてきたのかも知れない。 

どうしよう。アイデンティティが崩壊しそうだ。

山下達郎について(後編)

POCKET MUSIC(1986)

 POCKET MUSIC

オリコン最高位1位、年間チャートでも10位にランクインした8thアルバム。ぶっちゃけ「この作品、そんなに売れてたんだ」って印象が強い。いや、だってこれ、『MOONGLOW』とタメを張るレベルで地味な作品でしょう。

アナログレコーディングからデジタルレコーディングへの移行を余儀なくされて悪戦苦闘を……みたいな話は本作を語る上で避けては通れないトピックなんだけど、ここではムーンリヴァーを渡るようなステップで乗り越えていくことにする。「理想の音が鳴らない」ということがどれほど苦痛だったか、素人である自分には知る由もない。

『THE WAR SONG』という曲がある。タイトルから分かる通り反戦歌だ。「歌声はあくまで楽器の一部。言葉の意味よりもメロディとの調和を重視する」という洋楽的なアプローチで作詞作業をする山下達郎が、こういったメッセージ性の強い楽曲をドロップすることは珍しくて、それだけにこの曲に込められた思いに胸が締め付けられる。

僕の中の少年(1988)

 僕の中の少年

99年にファンクラブ内で実施された好きなアルバムアンケートで1位に輝いた9thアルバム。たしかに『Ride On Time』や『FOR YOU』のような爆発力はないけど全体がコンセプチュアルにまとまっていて何度も聴きたくなる作品だと思う。あとは『蒼氓』という達郎の私的内省の極地が存在していることが大きいんじゃないかなぁ。この楽曲の凄まじさについてはいつか単独でエントリを書いてみたい。たぶん無理だけど。もしかしたら自分もいちばん好きなオリジナルアルバムを問われたら本作を挙げるかも知れないな。唯一の日本語タイトルっていうのも良いよね。

ここ数年は『マーマレイド・グッドバイ』が特に気に入っている。ミニマルで臨場感のある演奏と艶やかで伸びのあるハイトーンボーカルが極上のメロディーで昇華される感覚がたまらない。曲構成も変わっていて、Aメロ→Bメロ→サビ→Bメロ→サビときて、Cメロを期待させるサックスソロの転調が入り、いよいよ盛り上がりそうなところで不意にフェードアウトしてしまう。やばい。余韻やばい。別れを告げた主人公の入り混じった複雑な気持ちを、あえて描かないことで聴き手に委ねるという何ともテクニカルな演出。最高。

少し錆び付いてた

イグニッション掴んで

僕は此処を出ていく

 

そうだね

戻ってはこない

探してる夢が此処には無いから

御覧 雨が止んだよ

 

走り出すのさ Baby

心のままに

 

マーマレード・グッドバイ

リゾートミュージックと決別してシンガーソングライターとしての自己表現を選んだことを、これ以上ないほどドラマティックに描き出した歌詞も見事としか言いようがない。

ARTISAN(1991)

ARTISAN(アルチザン)

私的内省の極地となった前作で生みの苦しみを味わい、再び職業作家的な曲作りに回帰した10thアルバム。この作品から現在に至るまではわりと地続きな感じがするな。アーティスト(=芸術家)ではなくアルチザン(=職人)、という音楽的矜持を冠したタイトルは山下達郎の二つ名として今日でもよく使われている。

90年代以降の達郎を「メディアタイアップとか商業的な音楽ばかり作っていて中身がない、音楽的にも同じことを繰り返していてマンネリだ」と批判する人もいる。言わんとすることは分からんこともない。前衛的なスタイルで魂の叫びを表現するロックバンドはそりゃまぁ結構だけども、それでも俺の人生における全ての音楽体験の中で、RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010で聴いた『さよなら夏の日』(第一生命のCM曲)が最も感極まった瞬間だったことは疑いようのない事実なわけで。あの日、あの時、あの場所で、あの曲を歌われたらそりゃ泣くよっていう。『Ray of Hope』リリース時に菊地成孔がインタビューで語ってた内容そのまんま。

さっき言ったように、DISる気満々で立ち向かったとするじゃない、このアルバムに。いくらでも批判できると思うわけ。「いつ聴いても同じだよ」とか「全然新鮮じゃねえよ」とか。でも口でそう言いながら、聴いてるともうダメ。感動しちゃって。

参りました、すみませんでしたっていう。こんなにタイアップ曲だらけでビジネスライクなアルバムなのに、こんなに感動させられるんじゃもうしょうがないじゃない? ジョン・レノンがやってたことはなんだったの?と思うくらいの(笑)。まあそういう意味ではさすが山下達郎ですよ。本当に素晴らしいアルバムだと思いますね。

 

ナタリー「菊地成孔山下達郎を語る」

https://natalie.mu/music/pp/tatsuro/page/6

圧倒的なクオリティによって問答無用でハートを揺さぶってしまう、もはやポップ・ミュージックによる一種の暴行。

COZY(1998)

COZY

前回のエントリ冒頭に書いた通り、俺が人生で初めて買ったCDアルバム。ただ、リリースを待ち望んでいて発売日に買ったとかそういう感じではなかった。ある日たまたま立ち寄ったCDショップでなんとなく緑色のジャケットに惹かれて……あれ?緑色のジャケット?……そうだ思い出した。俺が買ったのはクリスマス仕様の期間限定パッケージだったんだ。

これこれ。てことは俺が今作と出会ったのは中1の冬、リリースから数ヶ月が経ってからのことだったんだな。もしかしたら山下達郎でこのジャケットってことで『クリスマス・イブ』が収録されていると勘違いして買ったのかも知れない。当時の俺にこの作品や山下達郎の素晴らしさが分かっていたとは到底思えないのだけど、それでもよく聴いてたっけ。これを聴いてる自分がすごく大人っぽく見えたんだと思う。

『ヘロン』は彼の全楽曲の中でも特に好き。新しいヘッドホンや音楽プレーヤーを買ったとき、まず『ヘロン』のゴージャスなサウンドを聴いてみる、という行為が自分の中で慣例になっている。あと『ドーナツ・ソング』と槇原敬之『君は僕の宝物』のせいで、中学時代は「女の子とドーナツ屋に行く」という行為にめちゃくちゃ憧れたなぁ。自分の生活圏に24時間営業のドーナツ屋がなくて都会を羨ましく思ったっけ。今ではすっかり『セールスマンズ・ロンリネス』だ。あと『ドリーミング・ガール('98 REMIX)』のMVのさとう珠緒には何度かお世話になりました。

SONORITE(2005)

SONORITE(初回限定盤)

7年間のインターバルの間に、これまでに紹介した過去のディスコグラフィをひととおり聴き漁り、満を持して発売日に購入した12thアルバム。当時、遠距離恋愛していた彼女も達郎ファンで、発売当日にスカイプでお互いの感想を語り合ったのが懐かしい。

ラップあり、レゲエあり、カンツォーネあり。良く言えばバラエティ豊か。悪く言えば統一感皆無。個人的には「老い先も短いだろうから、今までやり残したこと片付けとくか」という残務処理のような印象が強くて苦手な作品だったりする。現役感がちょっと薄れてしまったというか、今作からは「余生」という二文字が浮かんでしまう。アルバム通して聴いた回数はたぶん数回しかないんじゃないかな。

でも『MIDAS TOUCH』と『FOREVER MINE』はめちゃくちゃ好き。『MIDAS TOUCH』はいまだにオールタイムベストアルバムに収録されなかったのは納得がいかないもの。『忘れないで』より断然こっちでしょう。中盤でサックスソロが入るタイミングとか何度聴いても鳥肌が立つ。『FOREVER MINE』のMVは初めて観たとき衝撃的だったっけ。

Ray Of Hope(2011)

Ray Of Hope

アルバム制作中の3月、日本人にとって忘れられない大災害が発生。某映画主題歌として2010年に発表していた『希望という名の光』は、復興のテーマソングとして全国のラジオ局でオンエアされ、被災者に希望と励ましを与え続けた。もともと「ポップミュージックは大衆への奉仕である」と語っていた達郎は、まさに音楽が作り手の意図や思いを超えて聴き手のものになる瞬間を目の当たりにして、アルバムのタイトルや一部内容を変更したという。

希望という名の光』がライブ演奏される際、間奏に『蒼氓』の一節が挿入されることが多い。私的内省の極地であると前述した『蒼氓』の歌詞にここで視線を落としてみる。

遠く翳る空から

たそがれが舞い降りる

ちっぽけな街に生まれ

人混みの中を生きる

数知れぬ人々の

魂に届くように

 

凍りついた夜には

ささやかな愛の歌を

吹きすさんだ風に怯え

くじけそうな心へと

泣かないで この道は

未来へと続いている

 

♯蒼氓

時に商業的と揶揄されながらも貫いた確固たる信念、山下達郎という音楽家の存在意義は、未曾有の大災害に打ちひしがれる数知れぬ人々の魂に『希望という名の光』として届いた。これほどエモーショナルな出来事があるだろうか。ここまで書いたところで『Ray of Hope』について何も語ってないんじゃないか、と気付いてしまったんだけど、もうどうでもいいか。

後編まとめ

すでに9年も新譜リリースから遠ざかっていることに愚痴の一つも零したくなるけど、ここまで「音楽の持つ根源的な力」を提示されてしまうと、ただただ「どうか長生きしてください」としか言えない。

山下達郎について(前編)

いちばん最初に買ったシングルが大瀧詠一『幸せな結末』で、アルバムが山下達郎『COZY』だなんて人、俺以外にこの世に存在するんだろうか。これマジで一生自慢していくつもりだかんな。というわけでGRAPEVINEに引き続き、愛が止まらないシリーズ山下達郎編をやっていく。クソ長くなりそうなので前後編。

CIRCUS TOWN(1976)

CIRCUS TOWN (サーカス・タウン)

シュガーベイブ解散の憂き目にあった達郎のソロデビュー作。グルーヴィーな演奏、洗練されたサウンド、今となっては聴くことができない荒削りでザラついたボーカル。やばい。早くも語彙力を喪失するレベル。ネバヤンとかヨーギーとか聴いてるティーンに聴かせたら普通に気に入るでしょコレ。海外で録音されたとか、本人が選定した一流ミュージシャンが参加してるとか、そういう上っ面の情報とか抜きにして今でもバリバリ通用するクオリティだから溜息が出る。ていうかなんでバンドで一度失敗した実績もないミュージシャンにこれほどの予算が与えられたんですかね。当時の音楽業界がそういうものだったのか、それとも山下達郎という才能を見い出した何者かによる文芸保護だったのか。まぁ今となってはどうでもいいや。

最近はアルバムラストを飾る2曲がすごく好き。『迷い込んだ街と』のアウトロで暴れまわるエレピ、『夏の陽』の若々しいシャウトは必聴。『夏の陽』の歌メロなんて一歩間違えば三波春夫なんだけど、ボーカルも含めたサウンドクリエイションで無理やりミドルオブポップに落とし込んでて笑っちゃう。

SPACY(1977)

SPACY (スペイシー)

冒頭に『LOVE SPACE』、中盤に『DANCER』、ラストに『Solid Slider』といったキラーチューンを配した2ndアルバム。たぶんこの3曲だけでアルバムの予算の半分以上かかってるんじゃないかと。若い頃はあんまり聴くことがなかった『DANCER』が今ではいちばん好きかなぁ。息がつまるような緊張感がたまらない。ライブでこの曲を演奏したときに作詞エピソードを語ってくれたことがあって、それを踏まえて聴くと色々と思うところがある。

脇を固める他の曲もじっくり聴いてみるとアレンジが面白かったり多重コーラスが美しかったり地味ながらいい仕事してて、たとえるなら落合監督の頃の中日ドラゴンズ打線みたいな感じ。『LOVE SPACE』がタイロンウッズ、『DANCER』が福留、『Solid Slider』が和田かな。わぁ分かりやすい。和田の場合、月に照らされ何が光るんですかね。ドラゴンズといえばルーキー石川が守備打撃ともにめちゃくちゃ良くて羨ましい。根尾は焦ってるだろうなぁ。

話が大幅にそれた。このアルバムジャケットって超かっこいいよね。このLPジャケットが部屋にあるだけでモテそう。あと『FOR YOU』も。

GO AHEAD!(1978)

 GO AHEAD! (ゴー・アヘッド! )

こちらのジャケットについてはノーコメント。

ライブアルバム『It's a Poppin' Time』も含めてセールス的になかなか奮わず、背水の陣で臨んだらしい3枚目のスタジオアルバム。Todd RundgrenCurtis MayfieldPhil SpectorThe Isley Brothersがみんな転生して一人の日本人になったら、というコンセプトアルバムです。嘘です。

ド定番だけど『Bomber』のベースラインはやっぱり何度聴いてもカッコいい。問答無用でアガる。いまだに歌詞の意味はよく分からんけども。ところで、「ボマー」と発音するべき単語を「ボンバー」として広めてしまった元凶は誰なんだろう。

『LOVE CELEBRATION』はネットに転がってるライブ音源がアホほどカッコいいのでそっちを聴くのがオススメ。ていうか達郎のライブはマジで引くほどエグいので、大袈裟な言い方をすれば山下達郎という音楽家に興味がなくても一度は経験しておくべき大衆文化の一つの到達点だと思う。言いたくはないけれど、そう遠くない将来、いくら金を積んだって見れなくなる時は必ずやって来てしまう。無理矢理にでも誰かを連れて行きたくなる、そういうライブをやる人というのは決して多くはない。

MOONGLOW(1979)

MOONGLOW (ムーングロウ)

オリコン最高位20位と、いよいよブレイク間近に迫った4thアルバム。ただ、ジャケットも地味だし、時系列的に『GO AHEAD!』と『Ride On Time』というインパクトの強い作品に挟まれてるし、有名曲も収録されていないし……てことでディスコグラフィの中でも微妙な立ち位置に置かれることの多い一枚。

個人的には『COZY』の次に手に入れたアルバムだったので中学生の頃によく聴き込んでたっけ。『MOONGLOW』というタイトルで、実質的な表題曲として『永遠のFULL MOON』があるわりに、『SUNSHINE-愛の金色-』とか『愛を描いて-LET’S KISS THE SUN-』なんて曲もあったりして、昼夜どうなってんのっていうのは当時から思ってた。

山口百恵のラストコンサートを収録したライブアルバム、槇原敬之『Such a Lovely Place』『Listen to the music』あたりが当時のヘビーローテーション。BSで放送された「槇原敬之デラックス」という特番がめちゃくちゃシュールでVHSに録画して何度も見ていたんだけど、中3の夏に友人から借りたAVを上書きダビングしてしまったのだった。それはそれで繰り返し見て『HOT SHOT』したから後悔はないけども。うん。葵みのりにはお世話になったなぁ。なんかの作品で名前を聞かれたシーンで本名を答えてしまった(もちろんピー音で消されてた)のが最高に可愛かった。達郎の話しろ。

Ride On Time(1980)

RIDE ON TIME (ライド・オン・タイム)

CMタイアップ、さらには本人がCM出演まで果たして盤石のプロモーション活動を敢行。予算もたっぷり使ってリリースされた5作目は見事オリコン1位を獲得。知る人ぞ知るポップス職人が、いよいよ茶の間にも知られる国民的ミュージシャンへと上り詰めたマイルストーン

冒頭2曲、『Someday』と『Daydream』が、もうとにかく日本ポップス史に燦然と輝く大大大名曲で悶絶してしまう。どちらも吉田美奈子による歌詞が良いんだよなぁ。『Someday』は都市に暮らす人の孤独感と希望を描いた文字通りのシティポップなのだけど、時代や聴衆に流されずに良質な音楽を作り続ける彼らの音楽家としての心境も内包しているように思える。いつかこの音楽はどこかの誰かに届くのだ、と自分を奮い立たせているようで、海外でも多くのポップスマニアが山下達郎を敬愛して止まない現代にこの曲を聴くと思わず泣けてきてしまう。『Daydream』は数々の色が登場する歌詞同様、サウンドも極彩色で果てしなく鮮やかで心地よい。サチモスの新曲です!つっても違和感ない。おかしいだろ。40年前の曲だぞ。40歳のオッサンを「さっき生まれた赤ちゃんです!」って紹介して違和感ないのと同じことだぞ。頭おかしくなるわ。

それにしても、この2曲に『SILENT SCREAMER』『RIDE ON TIME』が続くA面って、あらためてとんでもないレコードだな。当時このレコードを初めて聴いた人はマジで腰が抜けたと思う。

FOR YOU(1982)

フォー・ユー

鈴木英人によるジャケットがあまりにも有名な6thアルバム。邦楽史上最高の名盤を議論する際、はっぴいえんど『風街ろまん』、荒井由実ひこうき雲』、YMO『Solid State Survivor』、小沢健二『LIFE』、椎名林檎無罪モラトリアム』あたりと並んで必ず候補に上がるマスターピース

当時のアナログレコーディング環境の充実、商業的成功を収めたことによる時間的・経済的な余裕、ライブツアーを重ねて熟成されたボーカリゼーションとバンドアンサンブル、それらポジティブな要素が渾然一体となって、もはや『Sparkle』のイントロ数秒だけで凡百のアルバムを超越すると言っても過言ではないと思う。いやマジで。東京オリンピックの開会式で『Sparkle』のカッティングギターかき鳴らしながら達郎が颯爽と登場するシーンを夢想してニヤニヤしてしまう人を集めて飲みに行きたい。飲めないけど。

もうね、「この映像に合うようなビールのCMソングを作ってくれ」って広告代理店から依頼されて、踊ってる女性のステップに合わせてリズムを刻んだら『LOVELAND, ISLAND』という超ド級の名曲が生まれちゃうっていう、そういう神懸かり的な時期なわけ。ビートルズ後期のポールマッカートニーみたいな状態。都会的で大人っぽい名バラード『FUTARI』、海外人気の高いファンクナンバー『LOVE TALKIN' (honey it's you)』、ライブの最後に演奏されることでお馴染み『YOUR EYES』、本当にどれもこれも名曲ばかり。オノマトペ大臣『サマースペシャル』のサンプリング元である『MUSIC BOOK』なんて普段はさらっと聴いちゃうことが多いけど、これまた最高じゃんね。多幸感のあるリズム、キラキラとした陽射しのようなカッティング、爽やかなコーラスワーク、間奏のトロンボーンソロ、何もかも完璧。「山下達郎ってキャリア長くて作品もたくさんあるし、どれから聴いたら良いのか分かんない」って人は、ベストアルバム『OPUS』、ライブアルバム『JOY –TATSURO YAMASHITA LIVE–』、そしてオリジナルアルバム『FOR YOU』から入っておけば間違いない。

MELODIES(1983)

 MELODIES (30th ANNIVERSARY EDITION)

前年に自身初のベストアルバム『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』をリリース。そして30歳を迎えた節目の年に発表した記念すべき7thアルバム。ていうかここまで20代だったことがあらためて信じられない。妖怪かよ。

「夏だ!海だ!タツローだ!」というコピーまで生まれて、すでにリゾートミュージックの代名詞となっていた達郎が、時代の寵児になることを放棄して本来の自己表現に勢いよく舵を切ったのが本作。「あ、これあかん、流行り物として消費されて数年後には忘れ去られるパターンのやつや。ここらで路線変更せな」って本人が言ったかどうかは知らんけど、だいたいそういう流れ。この辺の経営者的な感覚が凄いよなぁ。で、その結果、『クリスマス・イブ』という自身最大のヒット曲が生まれるんだから何があるか分からない。

それにしても『クリスマス・イブ』の奇跡的な完成度の高さよ。これだけ毎年シーズンソングとして扱われていながら、少しも擦り減らないどころか、むしろ聴くたびに音楽の美しさを実感させてくれる。ポップミュージックとしての耐久性が異常。音楽に対して「タフだなぁ」と思うのはこの曲くらい。(((さらうんど)))のXTALがこの曲に関して興味深い考察を投稿していたので一部引用してみる。

日本に生まれ落ち欧米の大衆音楽に魅せられた山下達郎が、そのスタイルを借りながら、音楽の奥底にある感情に作用する核を掴み、聴き手の心を震わせているのだとしたら、クリスマス=借り物の喧騒の中で、だが確かに感じる孤独の感情、という状況が設定された「クリスマス・イブ」は、山下達郎の音楽の魅力を最も伝える楽曲となったのではないか

 

XTAL

山下達郎コンサートを観て考えたこと

http://www.xtal-jp.com/text/719/

そう、この世のものとは思えぬほど美しい多重アカペラコーラスのように、この曲自体もまた多層的な側面を持っている。それは山下達郎という一人の音楽家の魅力に止まらず、ひいては日本ポップス史という巨大なテーマにも到達し得ると思う。

あまりにも長くなるので他の曲については割愛しようかと思ったけど、せめて『メリー・ゴー・ラウンド』だけは触れておきたい。緻密な構成とリズムセクションのダイナミズムが呼び込む音の洪水。達郎ファンクの最高峰。『JOY –TATSURO YAMASHITA LIVE–』に収録されているライブテイクは11分を超える熱演で合法的にトリップできるので全人類が聴くべき。

前編まとめ

次回の愛が止まらないシリーズは葵みのりをやりたい。

GRAPEVINEについて

いちばん最初に好きになったロックバンドがGRAPEVINEだなんて人、俺以外にこの世に存在するんだろうか。とまぁ、いきなり暴論から書き出してみたけど、少しでも彼らの音楽に触れたことのある人なら俺の言いたいことがなんとなく分かってもらえると思う。ここ数日、彼らへの愛が止まらない(by Wink)ので勢いに任せて全オリジナルアルバムについて語っていく。 

覚醒 - EP

覚醒 - EP

全5曲。「普通のシングルでデビューしたくなかった」という理由でミニアルバムだったらしい。この時点でだいぶヒネくれてるし、楽曲と歌詞はもっとヒネくれてる。お前ら売れる気ないだろう、と思わず言いたくなる。自分たちの信じる音楽を貫いて、その結果として誰かが支持してくれればそれでいいや、という投げやりな雰囲気。

「昔はナイーブだった」って

ときに君は幾つになるんだっけ?

 

 ♯覚醒

と歌う田中和将、このとき23歳。末恐ろしい。

退屈の花

退屈の花

前作が売れたわけでもないのに、ずいぶん待遇が良くなったのか、音が格段に良くなった。当時のポニーキャニオンの期待が窺える。

坂本ファミリーに傾倒していた高校生の頃、たまたま目にした音楽雑誌に「矢野顕子の『ひとつだけ』にインスパイアされた曲」として本作収録『1 & More』が紹介されていて、気になりすぎてTSUTAYAに直行したのがGRAPEVINEとのファーストコンタクトだった。と思う。結果、それまで「下品で野蛮な存在」として嫌悪すらしていたロックバンドに見事にハマってしまったんだから人生わからない。

Lifetime

Lifetime

いよいよ作曲センスが化け物じみてきたドラマー亀井亨による『スロウ』『光について』といった代表曲が収録されていて、セールス的にも最も成功した2ndアルバム。

センター試験の会場に向かう電車の中、ソニーのMDウォークマンでこのアルバムを聴いてたっけ。実にいけすかないガキだな。

もう一度 君に会えても 本当は

もう二度と届かないような気がしてた

 

♯光について

このフレーズ、ことあるごとに人生のBGMとして流れてる。ていうか『光について』、ウィキペディアをのぞいてみたら「新ウンナンの気分は上々。」エンディングテーマだったってマジかよ。シュールすぎるだろ。

Here

Here

めちゃくちゃ好きなアルバム。彼らのディスコグラフィの中でも特に音が良い。海外の有名なエンジニアにマスタリングしてもらったっていう予備知識を持っているプラセボ効果もあるかも知れないけど、やっぱりどことなく洋楽的なサウンドに聴こえるな。ジャケットも日本っぽくない。

あれ?途中から再生しちゃった?と思わせるようなイントロで幕を開ける『想うということ』からして最高だし、何より『リトル・ガール・トリートメント』『羽根』『here』という後半の畳み掛けが素晴らしい。『羽根』のイントロにゾクゾクしない人とはちょっと友達になれそうにない。

Circulator

Circulator

リーダー西原が病気治療のため離脱。ゲストミュージシャンを多数迎えて製作された実験作、という位置付けの4thアルバム。

こちらは何と言っても中盤が良い。『風待ち』『lamb』『Our Song』の美しすぎる並びは前作後半と双璧ではなかろうか。あれこれ試行錯誤してるけど、なんだかんだで田中の言葉選び、亀井のメロディセンス、西川のギターアレンジというバンドとしての核の部分は不変。『Our Song』は去年の今ぐらいの時期にアホほど聴きまくってたっけ。何があったのかは察してくれ。

another sky

another sky

いやもう『アナザーワールド』の名曲っぷりよ。泣けるほど美しい亀井節のメロディラインに心を鷲掴みにされる。分かりやすいフックがあるわけではなく、それでいて一度聴いたら心のどこかに仄かに残り続ける、そういう絶妙なラインを攻めるのが実に巧みだと思う。歌詞については松本大洋の『GOGOモンスター』の世界観に影響を受けているらしいので漫画を読まなくては、と昔から思っているのだけど、いまだに読めていない。

アナザーワールド』とか『それでも』を曲単位では聴くものの、アルバム通して聴くことは少ないかな。ジャケットは好きだけどね。

イデアの水槽

イデアの水槽

これまでのアルバムは全て後追いで聴いていたのだけど、ここからようやくリアルタイム。つまり前述の音楽雑誌を読んでTSUTAYAに走ったエピソードは2003年頃の出来事ということになる。勉強しろ受験生。

初めてリアルタイムで触れた彼らの最新作ということで思い入れは非常に強い。ていうか一曲目の『豚の皿』が当時あまりにも衝撃だった。同級生に「すげー曲がある!」と聴かせて気持ち悪がられたのを覚えてる。曲が気持ち悪がられたのか、それとも俺が気持ち悪がられたのか、今となっては分からないけども。『Good bye my world』とキリンジの『Drive me crazy』は俺の中で2大ドライブソング。

ファン屈指の人気を誇る表題曲(通称エブエブ)が、とにかく全身が震えるほどの傑作。この曲を田中が号泣しながら歌ってるライブ動画がYoutubeに転がってるので、暇があったら見て欲しい。

いつか叶う様に と

どの面下げて言うんだろう

その大事な想いも

やがて忘れてしまうんだそうだ

 

♯Everyman, everywhere

忘れてしまうこと、消えてしまうこと、届かないこと。そういった「形にならない何か」に対する強烈な慈愛というものが田中の歌詞には常に含まれていて、それが光だったり風だったり水といった無形物をモチーフに歌われることが多い。そして不条理や不完全を自然なものとして受け入れることで自分自身を肯定していく。一旦ネガティブ。からのポジティブ。このコントラストに誰しもヤラれてしまう。

Metamorphose』もかなり好き。「逃げた」と「人間だ」で韻を踏むあたりが実に皮肉っぽい。この曲もライブテイクが素晴らしい。バインって日本最強のライブバンドじゃないかしら。

deracine

deracine

アルバム全体を通じてバランスがすごく良い。全10曲というコンパクトさも相まって、ズシンと重たいアルバムが多い彼らのディスコグラフィの中にあって気軽に何度も聴ける一作になってると思う。『REW』の歌詞が過去のシングル群を表現している、というファンの考察には膝を打った。

サウンド的には『Lifetime』あたりからブリティッシュなカラッとした音像が多かったけど、この辺りからデビュー直後の土の匂いのするルーツミュージックに回帰。オルタナカントリーっていうのかな。ただ、それにしてもミックスがちょっとローファイすぎる気がするような。もうちょい解像度の高い音で聴いてみたいのでリマスタリングして欲しい作品でもある。

From a Smalltown

From a Smalltown

前作で一部参加していた長田進が全面プロデュース。さらには作曲クレジットにGRAPEVINE名義が登場することからも分かる通り、それまで避けてきたというジャムセッションから生まれた曲を多数収録した8thアルバム。2020年現在では今作がいちばん好きかもしれない。この時期の田中は自身の過去(かなり波乱万丈だったらしい)を振り返るような歌詞が多くて心を揺さぶられる。

『smalltown, superhero』を後半じゃなくて4曲目に持ってくる、このセンスよ。『スレドニ・ヴァシュター』と『I must be high』の間に挟む、この度胸よ。そこに痺れる憧れる。『インダストリアル』『指先』『FORGEMASTER』『棘に毒』という後半の亀井曲4連発にはもう参りましたって感じ。

Sing

Sing

前作をさらに深化・抽象化させた派手さのかけらもないアルバム。この辺になってくると完全に一見さんお断りの知る人ぞ知る隠れ家的名店の趣。本人たちはそんなつもりないだろうけど。

『豚の皿』『VIRUS』あたりでもアプローチしていたポストロックを『CORE』で完全に体得した感がある。レディオヘッドっぽいって言ったら元も子もないかな。ていうか『CORE』がタイアップシングルってどういうことだよ。プロモーションどうなってんだ。 

Twangs

Twangs

このアルバムがリリースされた年に就職したせいか、あんまりじっくり聴いた記憶がない。アナスカ同様、アルバム通して聴く機会は少ない作品。でも雰囲気は前作の延長線上にあると思う。「やべぇ、シングルで切れる曲がねぇ!」つって慌てて『疾走』を作ったんだろうな、というのがよく分かる。で、アルバムでの置き所に迷って一曲目っていうアレでしょ。知らんけど。

完全に隠れた名店と化していた(俺が勝手にそう感じていた)彼らが、『真昼の子供たち』というウルトラポップソングを放ったことに度肝を抜かれた。この曲をBGMにしたツアーのダイジェスト映像がまた良い。


間奏のところでギター西川が東日本大震災の惨状を伝える新聞に目を通してるシーンが一瞬あって、当時の空気感がフラッシュバックする。と同時に、そのシーンをあえて挿入した意味とか、この曲の強靭な意志へと想いを馳せずにいられなくなり、つい目頭が熱くなってしまう。曲自体は4〜5年前に出来ていたそうだけど、この年にリリースしたことに柄でもなく運命みたいなものを感じる。

ここへきてブラスアレンジまで駆使するようになって、また一皮剥けた?というくらい瑞々しい。こうして振り返ってみると節目となるタイミングでミニアルバムを出すバンドだな。

しばらく英語タイトルを多用してたのに、思い出したかのように『無心の歌』『なしくずしの愛』『片側一車線の夢』『虎を放つ』と日本語タイトル(それも絶品のセンス)を連発。そんなアルバムのタイトルが『愚かな者の語ること』って、何それ、ちょっとズルくないか。歌詞も内省的・抽象的な内容は鳴りを潜めて、シンプルかつ等身大(当社比)な歌詞で驚かされる。『deracine』と同じくらいアルバムトータルで聴きやすいと思う。

それにしても、まさかGRAPEVINEが『片側一車線の夢』みたいな曲を世に送り出すとは思わなかった。the pillowsが出すなら分かるけど。そうそう、GRAPEVINEthe pillowsTRICERATOPSの3組を「売れないバンド御三家」と自嘲気味に語り合う2ちゃんねるのスレッドがかつて存在してたっけ。当時、リバプールインテルバルセロナのダメぽ三兄弟スレッドと合わせてちょくちょく覗いていたものだった。みんな今では立派になって。

Burning Tree

Burning Tree

もはやロックバンドというより音楽集団と呼んだほうがしっくりくる存在になってきた感のある13枚目。たしかに『Here』は青で、『Burning Tree』は緑だよな、という謎の説得力がある。

先行シングル『Empty Song』が少しばかり浮いてる気がしないでもないけど、やっぱり良いアルバムだと思う。どんどんテクニカルかつシンプルになっていくという矛盾を涼しい顔してやってのける。そこに痺れる(略)

Babel, Babel

Babel, Babel

めちゃくちゃポップ。『HESO』『UNOMI』『TOKAKU』ってタイトルがサマになるのは彼らくらいでしょ。相変わらず皮肉っぽさはあるものの、それはもう若者のニヒリズムではなく大人の遊び心へと変容していて、聴いていて思わずニヤニヤしてしまう。

このサムネで「これ途中で乳首見えるよ」って言われたら騙されるに決まってるやん。いや見えたけど。

危機があるから俺は産まれるぜ

まことしやかな説 Kinky girl

さあ恋は生まれるか

吊り橋にでも出掛けよう

奈良県

 

♯EVIL EYE

この言語感覚。"危機がある"と"Kinky girl"、そして"奈良県"と"Now,rock'n"をかけてくる肝の据わりっぷり。もっと言えば奈良県は近畿。どうなってんだ。

Roadside Prophet

Roadside Prophet

先行シングル『Arma』のくたびれた感じが清々しい。ちゃんとバンドとして歳を重ねたんだな、という安心感。だからこそ所信表明にも説得力が増す。

このままここで終われないさ

先はまだ長そうだ

疲れなんか微塵もない

とは言わないこともない

けど

 

♯Arma

全体としては前3作を足して割ったような印象かな。良い意味で凹凸がなくて、綺麗にまとまってる。DIYにこだわった『愚かな〜』、ミニマリストっぽい『Burning Tree』、気に入ったインテリアを詰め込んだ『BABEL,BABEL』ときて、今度はトータルコーディネートにこだわりました、みたいな感じ。

All the Light

All the Light

集大成なのか新境地なのか。そんなことはもうどうでもいいや。アカペラで幕を開けて、ホーンあり、弾き語りあり、ストリングスあり、シンセあり、ピアノあり、これでもかってくらい好き勝手やってからの『すべてのありふれた光』で大団円。もう不敵すぎて笑ってしまう。

 

ロックバンドというのは酷な稼業だ。ずっと変わらなければマンネリだの焼き直しだのボロクソに叩かれ、いざ変わってみたら「そんなの求めてない」とソッポを向かれる。そんなシビアな世界で、デビューから20余年、少しずつ、しかし確実に、彼らは変わりながら、時代や聴衆に迎合することなく、いちばん良いと思う音楽を作り続け、愛され続けてきた。『覚醒』で感じた投げやりな雰囲気は、彼らの矜持であったことに今さら気付かされる。あぁ、なんて凄いんだろう。

あの日、あの時、あの本屋でエロ本を勃ち読みして店員の刺す様な視線を感じていなかったら、俺は音楽雑誌を手に取ってなかった。扉を壊して連れ出してくれてありがとう。もうずいぶん昔のことのようだけど、ときに君は幾つになるんだっけ?

1月のこと

年末年始は40度近い高熱でダウンしてた。咳やくしゃみ、鼻水といった症状は見られず。熱が出る数日前に歯が酷く痛んだので細菌にヤラれたんだろうと自己診断。「感染から2〜4週間でインフルエンザに似た高熱が出る」というHIV感染も頭をよぎったけど、思い当たる節がなさすぎて泣いた。誰か僕と濃厚接触してください。

というわけで今年のヌキ初めは例年よりも遅い4日になってしまった。手痛い停滞。手遅れの出遅れ。そう言わんでおくれ。年間500発を目指して精進していく所存です。一人ショゾン。初めて感じたときめき。思い出はカレンダー。

 

一月中旬。高校サッカー選手権大会で静岡学園が優勝。ドリブルでガンガン突っかけていく伝統のスタイルを貫いての全国制覇には痺れた。準決勝のラストプレーでのPK獲得から決勝戦での劇的な逆転勝利までの流れの美しすぎること。Twitterでも呟いたけど、監督が若手に代替わりしたことも含めてスラムダンクの豊玉高校がラン&ガンをやり続けて優勝したみたいなカタルシス。よっしゃサッカー王国復活や!と思ってたところに清水エスパルスからドウグラスと松原后の退団の知らせが来たので心が無になった。

そうそう、高校サッカー選手権を見ようとして初めて自分の部屋のテレビが壊れている(EテレとBSしか映らない)ことに気付いたんだった。ロシアW杯以降どこかのタイミングで壊れていたらしい。まぁたいして困らないので放置。誰かオススメのテレビあったら教えてください。

 

一月下旬。ストロークスのようなエッジの効いたギターロックやThe 1975のようなキラキラしたドリームポップを、ひたすらグッドメロディで奏でるインドネシアのReality Clubというバンドにハマった。

いや最高。昔から男女ツインボーカルに弱い。初期のgolfとかspaghetti vabune!とか。最近だとSpecial Favorite Musicとか大好き。次に来日したらFor Tracy Hydeあたりとツーマンやったら一気に日本でもバズりそう。

井上陽水トリビュートアルバム


山下達郎の『RECIPE』、とても良い曲なんだけど、「くちづけのテリーヌ」「やさしさのムニエル」「ひとつまみのジェラシー」といったひとつひとつのワードに松本人志を感じてしまうのは自分だけだろうか。なんだか往年のガキ使フリートークで言ってても違和感がないような。

 

今日は井上陽水のトリビュートアルバムを聴いていた。陽水とのファーストコンタクトは、たぶん志村けんのコントで『人生が二度あれば』が使われてたのを目にしたときだったと思う。当時は子供ながら「なんて悲しい歌だろう」と切なくなってしまってコントのオチが頭に入ってこなかった。どうでもいい情報すぎるな。

井上陽水トリビュート

井上陽水トリビュート

 

もうこの参加ミュージシャンをキャスティングできた時点で企画として勝ち確でしょう。宇多田ヒカル椎名林檎の2枚看板を筆頭に、「いかにも」な実力派たちが脇を固めて、旬の若手たちをピックアップして陽水の名を知らぬ世代にもきっちりプロモートする万全っぷり。ほぼ完璧じゃないすかね。

まずドラッグソングである『夢の中へ』を槇原敬之がハウスアレンジする(それも本人選曲)という攻めっぷりよ。「え、そこトリビュートしちゃうんだ?」っていう。上記リンクのダイジェスト部分だけ聴いた時点では朗々と歌い上げる普通のカバーだな、というのが正直な印象だったんだけど、フルで聴いたらめちゃくちゃアシッドハウスで笑ってしまった。ノイズ混じりのラジオのようなローファイサウンドが中盤に覚醒してハイファイサウンドに切り替わる開放感とか完全に狙ってますやん。それ電気グルーヴがやるやつやん。「嫁の中でイってみたいと思いませんか」とか悪ノリするやつやん。

2枚看板はどちらも珠玉だし、あとは陽水の妖艶さをグルーヴに落とし込んだKing Gnuとiriが特に良かった。細野晴臣がアレンジした『Pi Po Pa (Reiwa mix)』、欲を言えばボーカルは岡村靖幸で聴いてみたかった気もする。「マッキーと岡村ちゃんで陽水トリビュートとかwww」と思った人は二人が参加した尾崎豊トリビュートアルバムをどうぞ。そうそう、さらに欲を言えば矢野顕子に『傘がない』あたりを歌って欲しかった。『ひとりぼっちはやめた』みたいに明るい感じになるか、エルレガーデン『右手』カバーのような鬼気迫る感じになるか。

前回のトリビュートアルバムで奥田民生が完璧に歌いきった『リバーサイドホテル』をチョイスした福山雅治は、ハリウッドザコシショウの誇張しすぎたモノマネが浮かんでしまってまともに聴けないのを差し引いても、うん、まあって感じ。2003年に村上‘ポンタ’秀一のアルバムに参加したときの『帰れない二人』は良かったよ、と励ましのジュレ添えて今日は〆。