十数年ぶりに『タッチ』を読み返してみた

めちゃくちゃ面白くて驚いた。何が驚いたって、自分自身が、上杉達也と同じくらい、あるいはそれ以上に柏葉英二郎に感情移入して読んでしまったこと。柏葉英二郎ってのは、おおまかに要約すると「ワイが高校生のときは野球部でイジメられて辛かったンゴ。だから監督に就任して高校球児たちをイジメてやるンゴ!ひたむきで明るい青春を送るリア充なんて爆発しろ!」っていうキャラです。昔は柏葉のことを憎々しく思ってたし、それはそれで面白かったのだけど、この年になって読んでみると柏葉の気持ちがすごく分かる。特に「リア充なんて爆発しろ!」の部分。ルサンチマンや嫉妬に起因する破壊願望に、めちゃくちゃ共感できてしまう。

青春を打ち壊そうと企む柏葉であったが、練習や試合を重ねていくうちに達也たちの情熱に徐々に感化されていく。そして須見工との県大会決勝戦で、とうとう彼は「通りすぎてしまった青春を、もう一度達也たちに託す」ことでルサンチマンを昇華しはじめる。すると達也は監督に向かってこう語りかける。

なくしたものをとりもどすことはできないけど、 忘れてたものなら思いだせますよね。───監督。

これは完全に僕へのセリフだ。達也の視線も明らかに読者の方を向いている。物語序盤で達也に感情移入しつつも、野球も恋愛もトントン拍子で進んでいく過程を見守りながら心の何処かで彼に嫉妬して柏葉にも感情移入してしまった僕。二律背反する感情が、柏葉と達也の邂逅により一気に同化する。このときのカタルシスといったら!

『タッチ』とは、上杉和也から上杉達也へのバトンタッチの物語であり、柏葉英二郎から上杉達也へのバトンタッチの物語でもあった。達也が「リンゴ」を渡した相手が和也でもなく南でもなく柏葉だったのが実に象徴的だ。

この程度の考察はググればいくらでも出てきそうな気がするけど、あまりに鮮やかに読み方がひっくり返ってしまったので、一種のマイルストーンとして記しておく。